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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)189号 判決

原告

金鎮栄

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「特許庁が昭和六二年審判第八五六一号事件について平成二年四月一九日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五五年七月八日、名称を「水冷型エンジンの冷却装置」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和五五年実用新案登願第九七三三七号)をしたところ、昭和六二年二月二三日拒絶査定を受けたので同年五月一三日査定不服の審判を請求し、昭和六二年審判第八五六一号事件として審理された結果、同年一二月三日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)があったので、右審決取消訴訟を提起した。東京高等裁判所は、昭和六三年(行ケ)第一四号事件として審理し、平成元年六月二二日、右審決を取り消す旨の判決(以下「前判決」という。)をし、前判決は確定した。

そこで、特許庁は、再度右事件について審理したが、平成二年四月一九日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年八月九日原告に送達された。

二  本願考案の要旨

車両に水冷型エンジン並びにファン付冷却器が装備され、該冷却器の上部とエンジンの冷却水ジャケット間は流入パイプで接続され、同冷却器の下部とエンジンの冷却水ジャケット間は流出パイプで接続され、これら流路中に介装したポンプにより冷却水を循環自在としたものにおいて、前記車両の車両走行風があたる位置に冷却水増量用補助タンクが配置され、該補助タンクに冷却水が強制循環すべく、該補助タンクの頂部と前記流入パイプとが上部連通パイプで内通状に連絡され、同補助タンクの底部と前記流出パイプとが下部連通パイプで内通状に連絡され、かつ、前記補助タンクの容量は、冷却水を少なくとも二〇l以上増量する大きさとされかつ冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持する大きさとされていることを特徴とする水冷型エンジンの冷却装置

(別紙図面一参照)

三  本件審決の理由の要点

1  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

2  これに対して、本件出願日前の出願であって、その出願後に出願公開された昭和五四年実用新案登録願第一八〇三九一号(昭和五六年実用新案登録出願公開第九九〇〇九号公報、又はその願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和五六年八月五日特許庁発行)参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という。別紙図面二参照)には、「車両に水冷型エンジン21並びにファン付ラジエータ30が装備され、該ラジエータ30の上部とエンジン21の冷却水ジャケット間はアッパホース33で接続され、同ラジエータ30の下部とエンジン21の冷却水ジャケット間はロアホース35で接続され、これら流路中に介装したウォータポンプ26により冷却水を循環自在としたものにおいて、前記車両の車両走行風があたる位置に冷却水増量用ヘッダータンク31が配置され、該ヘッダータンク31に冷却水が強制循環すべく、該ヘッダータンク31の頂部と前記アッパホース33とがパイプ32で内通状に連絡され、同ヘッダータンク31の底部と前記ロアホース35とがパイプ34で内通状に連絡されている水冷型エンジンの冷却装置」という考案(以下「先願考案」という。)が記載されているものと認める。なお、先願明細書の第五頁第一〇行ないし第一二行「ヘッダータンク31は、通常キャブと荷台との間に配置されており、エンジンルームよりも、走行中ははるかに低温となり、空気の流れも激しい・・・・・・・」との記載からみて、ヘッダータンク31はエンジンルームよりも、走行中ははるかに低温となり空気の流れも激しい位置、すなわち車両走行風のあたる位置に配置されているものと推認され、さらに先願明細書におけるヘッダータンク31は、単に冷却水の不足分を補うためのものでなく、積極的に冷却水を増量循環させることによってラジエータの冷却能力の不足分を補うためのものであることから前記のとおり認定した。

3  本願考案と先願考案とを対比すれば、先願考案の「ラジエータ30」、「アッパホース33」、「ロアホース35」、「ウォータポンプ26」、「ヘッダータンク31」、「パイプ32」、「パイプ34」は、それぞれ本願考案の「冷却器」、「流入パイプ」、「流出パイプ」、「ポンプ」、「補助タンク」、「上部連通パイプ」、「下部連通パイプ」に相当するから、本願考案は、先願考案と比べ、補助タンクの容量が冷却水を少なくとも二〇l以上増量する大きさで、かつ冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持する大きさとされているのに対し、先願考案のヘッダータンクはその容量がどの程度のものか明記されていない点で形式的に相違し、その余の点で一致しているものと認める。

そこで前記形式的相違点について検討する。

冷却水は、冷却水ジャケット内において、エンジンからの放熱を受けることによって温度を上昇し、冷却水ジャケットを出てラジエータ等で放熱することによって温度を降下して冷却水ジャケットに戻るサイクルを繰り返すものであり、その間受熱量と放熱量がバランスしていれば冷却水の水量に関係なく、その状態を保ち続けるものである。したがって、冷却水ジャケット出口における水温は、エンジンからの受熱量とラジエータ等からの放熱量に変化がなければ、いくら冷却水を増量させても変化するものではない。してみれば冷却水の増量は、単に増量した点に意味があるのではなく、これによって冷却水を効果的に放熱するようにできることに意味があるものというべきである(このことは、本願考案において補助タンクを車両走行風があたる位置に配置していることからも窺い知ることができる。)。してみれば、冷却水の増量分のみをとらえて、これを特に二〇l以上とした点は、意味のない限定と言うべきである。なお、冷却水を増量すれば、たしかに錆その他異物は希釈化されるが、先願考案においても希釈化は行われているのであり、しかも、二〇l以上希釈されたからといって、ただちに目詰まりが防止できるものではないから、どの程度希釈化するかは、単なる程度の問題にすぎないものである。

また、冷却水のジャケット出口における水温は、補助タンクの容量のみによって決定できるものではないが、本来、エンジンの種別、効率、耐久性、燃費等、種々の要請に基づいて設定される設計事項というべきものであって、一般にガソリンエンジンにおいては、それを八〇℃ないし九〇℃内外となるよう、サーモスタット等を用いて制御しているのである。また、潤滑油の特性はこの程度の温度に充分対応し得るように作られているものであって、極めて異常な状態を除けば、オーバーヒートすることも、圧縮比が低下することも、燃費が上がることも起こり得ない。そして、極めて異常な状態を想定して、そのような場合でもエンジン内の温度が上昇しないようにすれば、通常の使用状態においてはエンジンの温度がかなり低下し、これにより効率、燃費等に悪影響を及ぼすことは明らか(例えば、山海堂昭和五三年六月二〇日発行「自動車用ディーゼル機関」第四刷第二三七頁(特に第一九行ないし第二三行)、又は、山海堂昭和五一年七月一五日発行「自動車整備入門・ディーゼル・エンジンⅡ・各種装置と故障診断」第一〇四頁等参照。)であって、そのどちらを選択するかは設計者が何を重点として冷却系統を設計するかに基づく設計上の差にすぎないものというべきである。しかも、特に五〇℃という値を選定した点にも格別の意義は見いだし得ない。したがって、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持せしめることは、先願考案の単なる設計変更にすぎない。

以上のとおりであるから、前記形式的相違点は、先願考案に意味のない限定、及び単なる設計変更を加えたにすぎないものであって、本願考案は先願考案と実質的に変わるところがない。

4  したがって、本願考案は先願考案と同一であると認められ、しかも、本願の考案者が先願考案の考案者と同一であるとも、また本件出願時において、その出願人が先願考案に係る出願人と同一であるとも認められないので、本願考案は、実用新案法第三条の二第一項の規定により実用新案登録を受けることができない。

四  本件審決の取消事由

先願明細書には、先願考案のヘッダータンクを冷却水増量用であると認定した点を除き本件審決の理由の要点2摘示の技術内容が記載されていること、及び本願考案と先願考案とは、ヘッダータンクと補助タンクの点を除き同3において対比する各構成が一致することは認める。しかしながら、本件審決は、本願考案と先願考案とを対比判断するに当たり、先願考案のヘッダータンクは本願考案の補助タンクに相当すると誤って認定し、かつ本願考案において補助タンクの容量及び冷却水温度を限定した点についての技術的意義を誤認した結果、先願考案との相違点は意味のない限定及び単なる設計変更にすぎないと誤って判断したものであり、また、右判断に際し、行政事件訴訟法第三三条第一項の規定に違反し、前判決がその理由中で示した認定、判断に抵触する認定、判断をしたものであるから、違法であって、取り消されるべきである。

1  一致点の認定の誤り

先願考案は、車両用エンジンのラジエータ兼用ヘッダータンクに係り、冷却水注入用のヘッダータンク31を熱交換器とし、これに冷却ファンを付加し、放熱フィンを形成することによって、ヘッダータンク31に冷却機能をもたせたものであり、これによってラジエータ30による冷却能力の不足を補うようにしたことを特徴とする。

先願考案における冷却水量は、ヘッダータンク31内のものも含め一〇l前後(通常の一二〇〇ccないし二〇〇〇ccクラスの自動車)にすぎず、かかる少量の冷却水をヘッダータンク31とラジエータ30とによって冷却するものである。

このように、先願考案は、冷却水の水量に関係なく受熱量と放熱量とのバランスのみを考慮してヘッダータンク31に冷却機能を持たせたものであるから、冷却水を積極的に増量する必要がない。

これに対して、本願考案の補助タンクは冷却機能を有するのみならず、冷却水を増量する機能を有するものであり、それ故、実用新案登録請求の範囲に「冷却水増量用補助タンク」と規定されているのである。

しかるに、先願考案の「ヘッダータンク31」は、本願考案の「補助タンク」に相当するとした本件審決の認定は誤りである。

2  相違点の判断の誤り

本願考案は、旧来から制限的に認定されていた冷却水量を二〇l以上と大幅に増量し、これによって冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成を採用したことにより、エンジンのオーバーヒートを防止し新車時及びボーリング後に必要とされる慣らし運転を不要なものとするだけでなく、燃料消費率及び圧縮比の低下を効果的に抑えしかもその最良の状態を非常に長く持続することができるとともに、冷却水中に発生する錆その他の混有異物を希釈化し、ラジエータの目詰まりを防止し、もって冷却効率を高く維持し、その結果エンジン各部の耐久性と作動効率を向上させるという顕著な作用効果を奏するものである。

これに対し、本件出願当時の従来技術においては、通常の一〇〇〇ccないし二〇〇〇ccクラスの乗用車では、冷却水量は一〇l前後ヘッダータンクの容量は二l前後であり、また、エンジンの冷却水温度は八〇℃ないし九〇℃に設定されていたから、エンジンのオーバーヒートが起こり、異常なまでにエンジンの老化を早め、燃料消費率が増大し、圧縮比の低下により発火性が悪化し、エンジン全体の耐久性と性能が損なわれる等の欠点があった。

先願考案も、前記従来技術からみてその冷却水量がヘッダータンク31内のものを含め一〇l前後にすぎず、単に冷却機能を有すればよくタンクの容量を問わないものであり、また、その冷却水温度は出願時の従来技術から推測して八〇℃ないし九〇℃内外であってエンジンの老化を早めるから、本願考案の前記作用効果を奏することができない。そして、先願明細書には、冷却水温度を五〇℃以下に維持させるために冷却水を積極的に増量させることは、開示されていない。

したがって、本願考案において、補助タンクの冷却水量を二〇l以上に増量し、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成を採用したことは、格別の技術的意義を有するものであるのに、この点は先願考案に意味のない限定及び単なる設計変更を加えたものにすぎないとした本件審決の判断は誤りである。

3  行政事件訴訟法第三三条第一項の規定違反

前判決は、①冷却水の増量について、「本願考案の主たる目的は、水冷型エンジンの冷却装置について、前記本願考案の要旨のとおりの構成の採用、殊に、エンジン冷却水ジャケットとラジエータとの間に冷却水を循環させるパイプに対して補助タンクを並列状に連結する構成を採用することにより、補助タンクを連結しない場合に比し補助タンクの容量分の冷却水を増加させることにより、装置の全体としての冷却効果を向上せしめるとともに、冷却水中に発生する錆その他の混有異物を希釈する等の作用効果を得ることにあることが認められ、右によれば、本願考案における補助タンクが、原告主張のとおり、要するに冷却水増量用のタンクであることは明らかである(なお、被告は、冷却効果と冷却水量との間には関係がない旨主張するが、程度の問題を措けば、その点を含め、本願考案が目的とする前記のような作用効果が全く期待し得ないものとまで断ずるに足りる証拠はない。)」(甲第五号証第一三丁表第一〇行ないし第一四丁表第三行)と判示している。

すなわち、前判決は、その判決理由において、本願考案の補助タンクは冷却水増量用タンクであること、及び冷却水増量による所定の作用効果を否定し得ないことを認めている。

しかるに、本件審決は、「冷却水の増量は、単に増量したことに意味があるのではなく」等その意義を否定しており、その認定、判断は前判決の理由中に示された認定、判断に反する。

また、本件審決は、②本願考案は「実用新案法第三条の二第一項の規定により実用新案登録を受けることができない。」と判断している。

しかしながら、同法第三条の二第一項の規定は、本願考案と先願考案が同一である場合に適用されるものであるところ、本件審決は、先願明細書に補助タンクの冷却水量を二〇l以上に増量し、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成が開示されていないことを認め、この相違点について、先願考案に意味のない限定及び単なる設計変更を加えたものにすぎないとしたのであるから、同法第三条第二項の規定するいわゆる進歩性の判断基準を適用し、実質的に前判決によって否定された前審決と同一の処分をしたものである。

行政事件訴訟法第三三条第一項の規定は、裁判所が違法とした同一の理由に基づいて同一人に対し同一内容の処分を禁ずる趣旨の規定であって、本件審決は、右①②の点において右規定に違反するから、違法として、取り消されるべきものである。

第三請求の原因に対する被告の認否及び主張

一  請求の原因一ないし三の事実は認める。

二  同四の本件審決の取消事由は争う。本件審決の認定、判断は正当であって、本件審決に原告主張の違法はない。

1  一致点の認定について

先願考案のヘッダータンク31は、冷却水増量用である。すなわち、先願明細書には、ヘッダータンク31の構造について、「ヘッダータンク31内はラジエータ30と同様熱交換器310となっている。」(第四頁第九行、第一〇行)、「また最も簡単な構造とするには、第4図に示すように、ヘッダータンク31'の内部は単なる空洞として、外部に多数の放熱用フィン31'aを形成し」(第五頁第一八行ないし第六頁第一行)と記載されているから、ヘッダータンク31内に冷却水が充満していることが明らかである。そして、ヘッダータンク31は、同タンク内の冷却水を、単に冷却水の不足分を補うばかりでなく通常循環している冷却水に加えて循環させ、この冷却水によってラジエータ30の冷却能力の不足分を補うものであるから、冷却水量を増量させているものである。

原告は、先願考案はヘッダータンク31内のものも含め一〇l前後(通常の一二〇〇ccないし二〇〇〇ccクラスの自動車)にすぎず、かかる少量の冷却水をヘッダータンク31とラジエータ30とによって冷却するものであるから、冷却水増量用であるとはいえない旨主張している。

しかしながら、先願明細書にはそのような明示はなく、むしろ、先願考案がその目的であるラジエータによる冷却能力の不足を補うためにはヘッダータンクの容量を従来のものより大にする必要があることは技術常識である。そして、本願考案における冷却水の増量による冷却効果は、冷却水を増量することにより直接得られるのではなく、これにより放熱面積が増大することによって得られるところ、先願考案における冷却効果もヘッダータンク31の構造によって得られ、その構造をラジエータ30と同様熱交換器としたり、外部に多数の放熱用フィン31を形成する等して冷却効果の増大を図っているから、その容量が従来技術のように二l前後であるとしても、放熱面積はその数倍にもなっており、両者の冷却効果にそれほどの差はない。

したがって、先願考案の「ヘッダータンク31」は、本願考案の「補助タンク」に相当するとした本件審決の認定に誤りはない。

2  相違点の判断について

原告は、本願考案は、冷却水量を二〇l以上と大幅に増量し、これによって冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成を採用したことにより、所期の作用効果を奏する旨主張するが、冷却水の温度は、放熱面の位置、形状、冷却水流量等多数の要因によって決定され、しかも放熱面積の大小は単にタンクの大きさによって決定されるものでないから、二〇l以上増量する容量としたからといって、冷却水ジャケット出口における冷却水温度が五〇℃以下に維持されるものではない。

そして、先願考案においても、冷却水は増量されているから、希釈化は行われており、目詰まりしにくく、本願考案と同じ作用効果を奏するものである。しかも、冷却水を二〇l以上増量したからといって、直ちに目詰まりが起こらなくなるわけではないから二〇lという数値に格別な根拠はなくどの程度希釈化するかは、単なる程度の問題にすぎない。

一般に、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を八〇℃ないし九〇℃内外とするのは、理論上あるいは種々の実験等の結果に基づいているのであって、この温度では異常なまでにエンジンの老化を早めたり、燃料消費率が増大したり、圧縮比の低下により発火性が悪化したり、エンジン全体の耐久性と性能が損なわれるようなことは起こり得ない。

また、一般にわが国において使用する自動車の場合どのような使用条件でも冷却水温度が上昇しすぎないような冷却能力を備えているから、車両を最大積載状態(人員)で酷暑期に登坂する程度では、オーバーヒートを起こすことはない。さらに、この温度は、サーモスタット等を用いることによってこれ以上低下しないようにわざわざ制御されているものであって、もしこの温度を維持できないような極めて異常な状態を想定して、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持せしめた場合には、通常の使用状態におけるエンジン温度が低下し、燃料消費率や熱効率に悪影響を及ぼすことは明らかであり、これらの点を犠牲にしてまで五〇℃以下に維持せしめることは、設計者が何を重点として冷却系統を設計するかに基づく設計上の差というべきである。

なお、原告主張の本願考案の奏する作用効果については、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持せしめたとしても、慣らし運転は必要であり、また、シリンダとピストンのクリアランスはエンジンの使用状態において最適となるように設定されているから、製造時にこれを一〇〇分の三程度にまで縮減させても意味がなく、これにより圧縮比が上昇することも起こり得ない。しかも、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持せしめたからといって、どんな場合にもエンジンのオーバーヒートを防止できるという保障はない。

以上のとおり、先願考案においても希釈化の作用効果を奏することができ、しかも二〇lという数値には格別な根拠がないから、どの程度希釈化するかは単なる程度の問題にすぎないとした本件審決の判断に誤りはなく、また、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持せしめても、それにより格別の作用効果は奏し得ず、さらに、五〇℃という値にも格別な根拠を見いだし得ないから、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持せしめる点は先願考案の単なる設計変更にすぎないとした本件審決の判断に誤りはない。

3  行政事件訴訟法第三三条第一項の規定違反について

本件審決は、冷却水の増量を、これにより冷却水を効果的に放熱するようにできることに意味があるという点でその意義を認めており、前判決の理由中の判断に抵触するものでない。また、本件審決は形式的にも実質的にも前判決が違法とした同一の理由に基づいて同一の処分をしたものではない。

第四証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願考案の要旨)、同三(本件審決の理由の要点)の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の本件審決の取消事由について検討する。

1  成立に争いのない甲第二号証及び第三号証によれば、本願明細書(平成元年一二月一二日付手続補正書中の補正明細書)には、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次の通り記載されていることが認められる。

(一)  乗用車・トラック等の車両が搭載する周知の水冷型エンジンは、その前方にラジエータ型の冷却器を付属装備するのが通例であり、この冷却器にはエンジンとの間を強制循環する冷却水が入れられているが、その水量は一〇l前後(通常の一二〇〇ccないし二〇〇〇ccクラスの自動車)にすぎないため、酷暑期においては、最大積載状態で登坂すると、ピストン・シリンダが異常に高熱化し、オイル特性が急激に老化してその磨耗を進行させ、瞬間増大により圧縮比が低下し、耐力のない弱体なエンジンとする問題があった。また、冷却器内で発生した錆その他の異物により水管が詰まりやすくなり、冷却効果が低下するという問題もあった(前記補正明細書第二頁第一八行ないし第五頁第三行)。

本願考案は、このような問題を効果的に解決することを技術的課題(目的)とするものである(同第五頁第四、第五行)。

(二)  本願考案は、前記技術的課題を達成するため本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)記載の構成(同第一頁第五行ないし第二頁第二行)を採用した。

(三)  本願考案は、前記構成、特に旧来から制限的に設定されていた冷却水量を大幅に増量し、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成を採用したことにより、「エンジンのオーバーヒートが防止され、新車時並びにボーリング後に必要とされる慣らし運転を不要なものとするだけでなく、燃料消費率並びに圧縮比の低下を効果的に抑えしかもその最良の状態を非常に永く持続(「接続」は「持続」の誤記と認める。)することができると共に、冷却水中に発生し詰まり勝ちとなる錆その他の混有異物を冷却水量増大による希釈化により冷却効率を何時迄も高く維持させることができ、しかも冷却効果の向上によりオイル特性が充分に活かされた形となることによりピストン・クランク系その他エンジン各部の耐久性と作動効率の向上を約束することができる」(同第一〇頁第一〇行ないし第一一頁第一行)という作用効果を奏するものである。

2  先願明細書には、先願考案のヘッダータンクを冷却水増量用であると認定した点を除き本件審決の理由の要点2適示の技術内容が記載されていることは、当事者間に争いがない。

原告は、本件審決が本願考案と先願考案とを対比判断するに当たり、先願考案のヘッダータンクは本願考案の補助タンクに相当すると誤って認定した旨主張するので、まずこの点について検討する。

成立に争いのない甲第四号証によれば、先願明細書には「本考案は、車両用エンジンのラジエータ兼用ヘッダータンクに係り、(中略)冷却水注入用のヘッダータンクにも積極的な冷却機能を持たせて、ラジエータによる冷却能力の不足分を補うようにしたヘッダータンクに関する」(第一頁第一三行ないし第一八行)、「本考案は、(中略)前記ヘッダータンクにエンジンの冷却水が循環するように配管し、該ヘッダータンクに積極的な冷却機能をもたせたことを特徴とする」(第三頁第一一行ないし第一七行)、「ヘッダータンク31内はラジエータ30と同様熱交換器31cとなっている」(第四頁第九行、第一〇行)、「最も簡単な構造とするには、第4図に示すように、ヘッダータンク31'の内部は単なる空洞として、外部に多数の放熱用フィン31a'を形成し,これを必要に応じて冷却ファンで冷却するようにしてもよい」(第五頁第一七行ないし第六頁第三行)と記載されていることが認められる。

先願明細書の右記載事項及び当事者間に争いのない本件審決認定の前記記載事項を総合すると、先願考案のヘッダータンク31は、ラジエータと併用してエンジンの冷却を行うものであり、その冷却機能を発揮するために、エンジンの冷却水を循環させ、該冷却水をヘッダータンクに充満させて、放熱して該冷却水を冷却するものである。

したがって、先願考案においては、ヘッダータンク31、パイプ32、34内を循環する水で満たす必要があり、そのために冷却水が増量されるものであり、この増量された冷却水をその内部に満たすヘッダータンク31は、冷却水増量用タンクということができるから、先願考案のヘッダータンク31は冷却水増量用ヘッダータンクであって、本願考案の補助タンクに相当するとした本件審決の認定に誤りはない。

3  原告は、本願考案において、補助タンクの冷却水量を二〇l以上に増量し、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成を採用したことは、格別の技術的意義を有するものであるのに、この点は先願考案に意味のない限定及び単なる設計変更を加えたものにすぎないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。

そこで、本願考案の右数値限定の技術的意義を検討すると、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、「補助タンク14の容量は、図示車両が軽乗用車クラスであれば二〇~三〇lとし、それ以上の小型車クラスのものでは四〇~六〇lとするものであり、これはシリンダとピストンのクリアランスが5/100程度である従来一般のものに対しての概略値である。従って図例の特定クリアランスの場合(3/100程度)には、冷却能力を考慮して前記各値の二倍程度の容量とする。これら容量の設定に当たっては、四季を通じて最も気温の高い時期、例えば三五℃の外気条件下で最大積載状態の車両を可成り過酷な登坂角でもって走行させた場合に冷却水温全体が最高五〇℃以下に抑えられる程度の容量を一応の目安として考えている。勿論補助冷却水の他には一〇l程度の冷却水がプラスされた形とされている」(前記補正明細書第七頁第一五行ないし第八頁第八行)、「補助タンク14を単なる箱形のタンクとすれば、冷却水を貯留して、その表面からのみ放熱するという簡単な構造であるから、ファン付冷却器を二台併設するものに比べ、低コストとなる」(同第一一頁第一七行ないし第二〇行)と記載され、これらの記載事項は、「二〇l」が軽乗用車クラスにおいて三五℃の外気条件下で最大積載状態の車両をかなり過酷な登坂角でもって走行させた場合に、冷却水温が最高五〇℃以下に抑えられる最低の容量を示すものであり、「五〇℃」がいずれのクラスの乗用車においても右の場合に冷却水温が最高水温五〇℃となることを示すものと認められる。

そして、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、本願考案の「構成のもとでは、冷却水量が大幅に増加したので、冷却能力もそれに応じて増大し」(前記補正明細書第八頁第一〇行、第一一行)と記載されていることが認められるから、本願考案の補助タンクは、エンジンの冷却に係る他の条件が同じなら、タンクの容量が大きければ大きいほど放熱量、すなわち、冷却能力もそれに応じて増大するタイプのものであると理解される。

以上の認定事実によれば、本願考案において、補助タンクの冷却水量を二〇l以上に増量し、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成の技術的意義は補助タンクの容量を、最低二〇lとし、かつ、三五℃の外気条件下で最大積載状態の車両をかなり過酷な登坂角でもって走行させた場合に、冷却水が最高五〇℃となるような大きさの容量(軽乗用車クラスであれば、二〇~三〇lそれ以上の小型車クラスのものでは四〇~六〇l)とする構成により前記1(三)認定の作用効果を奏することにあると認められる。

一方、先願考案のヘッダータンク31は冷却機能を有すると同時に増量した冷却水をその内部に循環内蔵する増量用タンクと解されることは、前述のとおりである。

そして前掲甲第四号証によれば、先願考案のヘッダータンク31は、通常キャブと荷台との間に配置されており、エンジンルームより走行中はるかに低温となり、空気の流れも激しいので、第2図のように単なる熱交換器31cとしただけでもかなりの冷却効果を得られるが、冷却ファン36を付加して強制冷却することにより冷却効果を高めることができ、さらに、最も簡単な構造とするには、第4図に示すように、ヘッダータンク31'の内部は単なる空洞として、外部に多数の放熱用フィン31a'を形成し,これを必要に応じて冷却フィンで冷却するようにしてもよいものであることが認められる。

右記載事項によれば、当業者は、先願明細書には、そのヘッダータンク31について、冷却効果を踏まえ、種々な条件、すなわち、配置位置、冷却ファンの付加、形状及び構造の変更が考慮されていると理解し、さらに、この条件の相違により冷却効果に相違が生じ、また、冷却水容量が同じタンクであっても、他の条件が異なれば冷却効果に相違が生じること、他の条件が同じであるならば、ヘッダータンクの冷却水の保有できる容量の大きいものは小さいものより放熱面積を大きくできるから、冷却能力を大きくするためにはタンクの容量を大きくすればよいことは、当然のこととして理解できるものと認められる。

したがって、先願考案のヘッダータンク31の冷却水容量をどの程度にするかは、設計において、①エンジンの種類とラジエータの放熱容量及びタンクの種々の冷却効果条件、すなわち、その配置位置、冷却ファンの付加、形状と構造、②車両の運転条件、③エンジン稼働時の冷却水の最高温度条件等を考慮して自ら定まる単なる構成の変更というべきである。

ところで、①の冷却効果条件については、本願考案の特許請求の範囲には「車両走行風のあたる位置」と規定されているのみであり、一方、先願考案のヘッダータンク31は、通常キャブと荷台との間に配置されており、エンジンルームより走行中はるかに低温となり、空気の流れも激しいとされていることは前記のとおりであるから、両考案において異なるところはない。

また、②車両の運転条件については、本願考案における補助タンクの容量設定の条件が四季を通じて最も気温の高い時期、例えば、三五℃の外気条件下で最大積載状態の車両をかなり過酷な登坂角でもって走行させた場合であることは前記のとおりであって、このような運転条件は日本の気候及び地形からして実際に起こることが容易に予測される事態であるから、エンジンの冷却系統の設計に当たり当然考慮されねばならない運転条件であり、先願考案のヘッダータンク31の容量の設計に当たり、当然考慮されている条件であると認められる。

さらに、③エンジン稼働時の冷却水の最高温度条件について、本願考案の特許請求の範囲には「冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持する」と規定されている。

一方、成立に争いのない乙第一号証によれば、林裕・杉本和俊著「自動車用ディーゼル機関」(株式会社山海堂昭和五三年六月二〇日発行)には、エンジンの冷却水の温度について、「適当な冷却水温の範囲は以外に狭く、通常八〇℃程度を目標としている」(第二三七頁第二二行、第二三行)と記載され、また、成立に争いのない乙第二号証によれば、高橋初郎著「ディーゼル・エンジンⅡ」(株式会社山海堂昭和五一年七月一五日発行)には、右の点について、「実験例では、エンジン運転温度が二七℃のときは六〇℃のときより五~六%も悪くなっている。一般の自動車は、冷却水温が八〇℃前後において良好な運転ができるよう設計されている」(第一〇四頁第七行ないし第一〇行)と記載されていることが認められるから、本件出願当時エンジンの冷却系統の設計に当たっては、冷却水温を八〇℃前後として各部の設計をすることが当業者に周知であったというべきであり、かつ、冷却水温を八〇℃前後に制御できれば、エンジンに不都合を生じないものと解される。

本願考案の前記冷却水温度五〇℃以下と右周知の冷却水温度八〇℃との間には、約三〇℃の差異があるが、前掲甲第二号証を検討してもこの差異を設けたことについての技術的意義は本願明細書から明らかでない。そして、冷却水温度が五〇℃ということは、前記走行条件の三五℃よりも高い温度であり、周知の冷却水温度八〇℃よりも低い温度であることを踏まえれば、エンジン稼働時の冷却水の最高温度条件として五〇℃を選択することは設計において適宜なし得る単なる設計変更と認められる。

したがって、本願考案の補助タンクの冷却水容量を決定するために考慮・設定された前記①ないし③の条件はいずれも先願考案と同一であるか、あるいは設計上当然考慮されているものと言うべきである。本願考案において補助タンクの容量は、実用新案登録請求の範囲に「冷却水を少なくとも二〇l以上増量する大きさ」と規定されているが、具体的な容量は前記①ないし③の条件を考慮して設定されるものであり、このことは本願明細書に軽乗用車クラスであれば二〇~三〇l、それ以上の小型車クラスのものでは四〇~六〇lとする旨明記されていることから明らかである。

しかも、本願考案が補助タンクの冷却水量を二〇l以上に増量し、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成によって奏する作用効果についてみても、前記1(三)認定の「冷却水中に発生し詰まり勝ちとなる錆その他の混有異物を冷却水量増大による希釈化により冷却効率を何時迄も高く維持させることができる」という作用効果は、先願考案もヘッダータンク31を設け、冷却水を増量しているものであるから、錆その他の混有異物の希釈化を行うものであり、その他の作用効果においても先願考案との間に格別の差異は認められない。

また、原告は、右構成によりラジエータの目詰まりを防止すると主張するが、前掲甲第二号証を検討しても二〇l以上の増量がラジエータの目詰まり防止にどの程度寄与するのか明らかでなく、また、冷却水の量が多ければ多いほど希釈化が行われるであろうことは技術上当然のことであるから、冷却水を二〇l以上に増量させたことに作用効果上格別の技術的意義を見いだすことはできない。

したがって、前記相違点は、先願考案に意味のない限定及び単なる設計変更を加えたにすぎないものであって、本願考案は先願考案と実質的に変わるところがないとした本件審決の判断に誤りはない。

4  原告は、本件審決は行政事件訴訟法第三三条第一項の規定に違反するとし、その理由の一つとして、前判決は、判決理由中で本願考案の補助タンクは冷却水増量用タンクであること及び冷却水増量による所定の作用効果を否定し得ないことを認めているのに、本件審決は、「冷却水の増量は、単に増量したことに意味がなるのではなく」等その意義を否定しており、その認定、判断は前判決の理由中に示された認定、判断に反する旨主張する。

成立に争いのない甲第五号証及び前記本件審決の理由の要点によれば、前判決の理由及び本件審決の理由中には、原告が本件審決の取消事由3において主張する記載が存することが認められる。

しかしながら、前記本件審決の理由の要点によれば、本件審決は、「冷却水の増量は、単に増量した点に意味があるのではなく、」に続き「これによって冷却水を効果的に放熱するようにできることに意味があるものというべきである」と認定、判断しているのであり、この記載は、その前後の記載事項をも併せ参酌すると本願考案は、補助タンクがラジエータに併設され、この補助タンクの容量分の冷却水を増量することにより、該補助タンクで増量冷却水を放熱し、もってエンジンの冷却効果を向上させるものであることを述べていると解することができ、本願考案の補助タンクが増量用のタンクであること及びこの冷却水の増量用タンクの冷却効果について、その意義を認めていることが明らかであるから、前判決がその判決理由中で示した判断に抵触するものではない。

また、原告は、本件審決が行政事件訴訟法第三三条第一項の規定に違反するもう一つの理由として、本件審決は、本願考案につき「実用新案法第三条の二第一項の規定により実用新案登録を受けることができない。」と判断しているが、右規定は、本願考案と先願考案が同一である場合に適用されるものであるところ、本件審決は、先願明細書に補助タンクの冷却水量を二〇l以上に増量し、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成が開示されていないことを認め、この相違点について、先願考案に意味のない限定及び単なる設計変更を加えたものにすぎないとしたのであるから、同法第三条第二項の規定するいわゆる進歩性の判断基準を適用し、実質的に前判決によって否定された前審決と同一の処分をしたものである旨主張する。

しかしながら、前記本件審決の理由の要点によれば、本件審決は、先願明細書に補助タンクの冷却水量を二〇l以上に増量し、冷却水ジャケット出口における冷却水温度を五〇℃以下に維持するという構成が開示されていない点を一応の形式的相違点と認めた上で、この相違点について先願考案に意味のない限定及び単なる設計変更を加えたものにすぎないと判断したものであり、出願に係る考案と拒絶の理由とされた先願考案との形式的な相違点が前者の実用新案登録請求の範囲に記載された数値限定であり、その限定が技術的意義に乏しい意味のない限定であるとき、あるいは後者の単なる構成の変更(単なる設計変更はその一態様である。)であるときは、両考案は実質的に同一であり、実用新案法第三条の二第一項の規定を適用すべきであるから、本件審決が同法第三条第二項の規定するいわゆる進歩性の判断基準を適用したとする原告の主張自体誤りである。(なお、前掲甲第五号証によれば、前審決が同法第三条第二項の規定により拒絶の理由とした引用例は、本件審決における先願明細書とは全く別個の刊行物であり、行政事件訴訟法第三三条第一項の規定は、特許庁が再度の審判において、前の処分の理由と異なる理由をもって結果としては前の処分と同一結論の処分をすることを禁止したものではないから、原告の主張は、この点からも理由がない。)。

5  以上のとおりであって、本願考案と先願考案とを対比判断するに当たり、先願考案のヘッダータンクは本願考案の補助タンクに相当するとした本件審決の認定、及び本願考案と先願考案との形式的相違点は意味のない限定及び単なる設計変更にすぎないとした本件審決の認定、判断に誤りはなく、また、本件審決には、右判断に際し、行政事件訴訟法第三三条第一項の規定に違反した違法は存しない。

三  よって、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 佐藤修市)

〈以下省略〉

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